かくれ脱水の季節
新緑の季節を迎え、過ごしやすい季節になってきましたが、今年は日本各地で夏日を観測する日が多くあるようです。
気温が上がってくると、気になってくるのは入院患者さんの「かくれ脱水」です。
入院中は日光による日射病にはなりませんが、熱中症になる恐れがあります。
気温が1℃上昇する度、発汗量も増えていきます。
病院では部屋の換気、エアコン等で、常に適温になるよう室温管理をしていますが、気温が上昇してくると、在宅では知らない間に脱水症及び熱中症に陥る可能性があります。
脱水症とは体から水分が減り、日常生活に障害が生じた状態です。
体温調節ができなくなり、栄養の吸収及び老廃物の排出ができなくなります。
体の中の水分は、血液、唾液、汗、尿、リンパ液などで、体が正常に機能するために必要で、高齢者が日常生活で一日に摂りたい水分量は一般的に、2~2.5ℓだと言われています。
高齢になると、夏でも冬でも季節に関わらず脱水症状を起こしやすいと言われていますが、その原因として、以下のことがあります。
・成人の時、体内には体重の50~70%の水分があったところ、50%にまで減少すること
・感覚が鈍り、のどの渇きに気づきにくくなること
・糖尿病による尿量の増加、利尿薬による多量の尿排泄
・トイレの心配で、外出時、就寝前の水分摂取を控える
病院では、特に食事を自己管理できない患者さんの場合など、体の中に飲み物や点滴から入る水分量と、尿として出る水分量を把握して、水分管理をしています。
在宅では、介護者の方が一人でするには大変難しいものですし、同居されていても、日中は独居という方も多いので、脱水症になる危険は高まります。
在宅において
脱水を起こしやすい要因
・高齢者
・直射日光が当たる場所で寝ている
・抗精神薬を服用している
・一人暮らし(日中独居)
・節電している
・マンション等に住んでいる
・風邪、下痢、発汗等の体調不良
上記の要因に当てはまるものがあって、下記の症状があったら、脱水症の疑いがあります。
・睡眠障害がある
・よく居眠りする
・食欲がない
・認知機能が低下している
・頭痛
・体が痛い
・声が出にくい
・肌ツヤが悪い
・尿、唾の量が減る
・便秘
・微熱
・足がつる
・汗をかかない
・体重減少
・その他
脱水症状が軽いうちは、活動も水分補給もできますが、進行すると動くのも水を飲むのも嫌になり、症状がどんどん悪化してきます。
健康な成人なら、早い段階での経口補水液等の摂取で、回復する見込みもありますが、高齢者の場合は、症状がでたらすぐに医療機関を受診されることをお勧めします。
水分補給、何がいい?
最近はマスメディアでも取り上げられ、脱水予防の知識も世間一般に知られるところとなっていますが、その情報をあやふやなままに受け入れている方も多いようで、外来に来る患者さんの中にも、水分補給といってビールやコーラを多量飲んだり、水を一日に3ℓ以上飲んでいたり、いろんな方がいます。
アルコールを水分補給と称するのは言い訳でしょうが、アルコール摂取は水分補給どころか脱水を引き起こすので、これからの季節は特に、塩をふった枝豆や、アサリの酒蒸しなど、塩分と蛋白質を含んだおつまみもご一緒に、お酒を飲んだらお茶も飲むようにすると良いですね。
水を一日に3ℓ以上というのも、仕事等で発汗が激しいなら、3ℓも4ℓも必要になってくるでしょうが、汗ばむ程度の日常生活上では摂りすぎの懸念があります。
それにもう一つ問題が。
体の外に出ていく、汗や尿は、ただの水ではありません。
様々な微量元素が含まれており、身体が正常に活動するためには欠くことはできないもので、体の外に出て行きっ放しの状態では、だるくなったり頭痛がしたり、動けなくなってしまいます。
汗に含まれる微量元素の主なものに、ナトリウム(以下Na)があります。
Naは塩の主成分で、高血圧や、糖尿病、心臓病、腎臓病など様々な病気の方が減塩という形で摂取制限している元素です。
どうしてNaを摂りすぎるとよくないかというと、水分を体の中に溜め込み、むくみを引き起こすなど、病気発生、治癒低下、病状進行の原因になるからです。
しかし、脱水ということに関して言えば、このNaがなければ、せっかく飲んだ水も体内には留まらず、体外に放出されてしまいます。
病名では「低ナトリウム血症」といい、「せん妄」と呼ばれる意識障害をきたすことがあります。
せん妄は錯乱や幻視、不安や恐怖感などの症状があり、特に高齢者で認知症の方だと、周囲の人も、認知症によるものか、せん妄によるものか判断できず、症状が進行し、せん妄を繰り返すことで、認知機能がさらに下がる恐れがあります。
ひとえに水分補給とはいっても、何でもかんでもというわけではなく、日常生活に見合った種類、量を摂るようにしないといけません。
経口補水液は、スムーズに体内に水分を取り込んでくれるので、これからの季節は、数本常備しておかれると良いでしょう。
水分補給に優れている経口補水液ですが、食事がきちん摂れていて、水分も適度に飲めて、汗をかかないのなら、飲む必要性はあまりありません。逆に脱水予防にと飲みすぎて、糖と塩分の摂り過ぎになり、体調が悪くなることもありますから気をつけたいですね。
これから夏に向けて、気温はどんどん上昇してきます。仕事や生活上で忙しいと、つい食事がおざなりになり、水分をこまめに摂るということも忘れがちですが、体調を崩さないよう、日々自分の体調を顧みながら、体調に不調を感じたらすぐ対処できるように、心掛けておきたいです。
担当:奥村外科胃腸科
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